パタヤの女にときめく[前半]2018秋
滞在中のバンコクから、パタヤへ1泊旅をすることにした。
土曜朝、私・夫・夫の後輩A君の計3名が、エカマイのバスターミナルに集合した。
もう一人、こちらに駐在している後輩B君は現地集合。前日から現地に前乗りし「事前警備」をしてくれているらしい。なんとも頼もしい…?
高速バスは片道108バーツ(約360円)。
パタヤ行きに限り、少しずつ値段が下がっているような気がする。なぜ?食べ物も乗り物も、どんどん値上がりしているバンコクの相場に逆行している。まさか、パタヤ旅の価値だけが下がっているわけではあるまい。
約2時間半でおなじみのビーチロードが目に入ってきた。1年ぶりの風景。
”前乗り”の後輩B君と合流。私が彼に会うのは2年ぶりだった。以前より”タイらしさ”が板についていた。タイ人っぽくなったのではない。”タイにいる日本人”っぽかった。パタヤにはこの数年足しげく通っているらしい。挨拶もそこそこに後輩A君を從え早速、昼間の裏通りに消えて行った。
予約していたホテルに向かった。今までになく奮発し、1泊3000バーツ(約1万円強)代の大きなホテルを予約していた。ちなみに、今まで夫婦で宿泊したパタヤでの最低価格は500バーツだ。ここぞとばかりにラグジュアリー感を楽しみたい気持ちはあったが、なんせ1泊泊まりで時間がない。さっさとチェックインを済ませ、浜辺の屋台でゆっくりビールを飲むことにした。
ああ、これこれ。
浜辺には、日差しを完全に遮ってくれるパラソル連。その下に使い古されたデッキチェアがズラリと並んでいる。
何度目だろう。楽しい時も、少し苦しい時も私はこのビーチでこうやって寝そべり、ぼんやりしていた。
パタヤといえば享楽的なイメージだが、私にとってのパタヤはこれなのだ。
目の前の砂浜で、白人女性が肩にボディアートを施していた。揚げたエビやカニを持って行商が何度も目の前を通り過ぎていった。バンコクより気温が高く、背中が汗ばんできたが構わず横になっていた。うつらうつらと30分ほど寝付いてしまった。
目が覚めて、少し涼しいところに移動することになった。目の前にあったデパートで後輩2人と再び合流した。二人ともやや赤みを帯びた顔で登場。小さなバーでゲームなどして遊んでいたらしい。ひょっとして夫婦二人の時間を気遣ってくれたのか??と、今になってから思った。
4人アイスクリームを食べながら、「パタヤの帝王」の風格を感じさせるB君の話を聞いた。
「なんでパタヤがそんなに好きなの?」
「だって・・・パタヤは、10メートルごとに酒が飲めるんですよ!」
「そ、そうか・・・・」
東京の横丁や、バンコクの歓楽街でも酒は浴びるほど飲める。彼が言いたいのはもちろんそういうことではなかった。
パタヤの街で、10メートルごとに出逢える何かを、この数年で彼は知ったのであろう。
それは彼にとって喜びであり、楽しみであり、もしかしら生きがいにすらなっているのかもしれない。
・・って、オイオイ30歳だろう。とも思うが、30歳だからだとも思う。
「いやー、社会復帰が難しいですわ!パタヤは!わはははは」
と、満面の笑みで大好物のミントチョコアイスを2つ平らげていた。
海外駐在で体や精神を病む日本人は少なくない。彼は実に幸せそうだった。駐在員になるべくしてやってきた男だ。夫も独身・駐在員時代から、数えきれないほどパタヤには足を運んでいる。しかし、10年以上かかっても結局彼のようにはなれなかった。いや、のちの妻としてはそちらの方が何かと気がかりが少なくよいのだが。
数時間後。
どこへ行っても眠そうな昼間の風景とは逆の、享楽の夜がやってきた。
そこで出逢った2人の女性の体温が今もこの腕に残っている・・・。
(なんだと!?)