日焼けどめが溶け落ちる

タイ中心旅行記ブログ

パタヤの女にときめく[後半]2018秋

夕暮れ時。これからがパタヤマスターB君の本領発揮だった。ただ、まだ街全体が盛り上がるには時間が早かった。

「ウォーキングストリート」という夜のメインストリートからの小道に入った。野外に円状のテーブルが回転し続けるバーカウンターがあった。カウンターの中にママがいた。他に女性スタッフが2人。私達はB君に促されるように並んで席についた。席はゆっくり、同じ方向にゆっくり回り続けた。

ママは私達にゲームをすすめた。アタシ達が勝ったらお酒をおごってね、と。テーブルの上になにやら持ってきた。五目並べのようなゲームだ。ぶらり客に勝ち目などあるわけがない。わかっているが、ひとまず付き合うことにした。

早々に負けた。ゲームの続きは男性達に任せ、ふと正面見た。わたし達の席の向かい、円形カウンターの外側で、店員女性が一人が熱心に化粧をしていた。小柄で顔の掘りが浅い。日本人のような顔立ちのタイ人女性だった。私と目が合うとニコリとほほえみ、そのうちジェスチャーで「隣に座りなよ」と促してきた。お言葉通り、自分のドリンクを持って隣に移動してみた。間入れず、ドリンクをねだられた。

英語で少し話かけられた。どこから来たの、いつまでいるの。たわいもない会話。その間も彼女はせっせとメイクを続けていた。人目をはばからない作業っぷりがなんだか面白かった。酒を飲みながら、横から黙ってその姿を見つめ続けた。まるでパトロンおっさんだ。その内カウンターの向かい側でゲームに惨敗した3人がお会計を始めた。メイクの女性は突然立ち上がり、日本の音楽があるのよ、と言った。カウンター横の黒いボックス前に移動し何かを操作した。店内のBGMが変わった。日本の最新ポップスだった。私を見て、この曲知ってる?いいでしょ?とまた微笑んだ。

お会計が済み、私達が立ち上がるとママ達が一斉にまたね〜と手を降った。メイクの女性が突然、私に近づいてハグしてくれた。やわらかくて小さくて、温かかった。私達が離れて数秒で店内のBGMは元の洋楽に戻った。

 

日が暮れ、夕食は海が見えるシーフードレストラン。おしゃれに白ワインなど愉しみながら、全員で食事をした。

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レストランからストリートに戻ると、本格的なパタヤの夜が始まっていた。

きらびやかな店の前には客引きや色々な衣装をまとった女性達が、歩く人々を誘惑していた。夫達は何度も手を引っ張られていた。私も顔面前10センチのところに、なにやら書いたチラシを近づけ迫られた。

何度も歩いた通りだ。初めてバーの中に入ったことは忘れない。だるそうに、お立ち台の上で揺れる10人余りの下着姿の女性。台の下から見守り続けた。とてつもなく、悪いことをしているような気がした。ビールを飲んでも飲んでも全く酔わなかった。お客は、気に入った子がいると直接声をかけるか、お立ち台下の店員に言って、隣に座らせる。その場で何かしているような光景はあまり見たことがない。見ないようにしていただけかもしれない。

 

ひとまず、どこかに入ってみようということになった。A君はパタヤもお店も初体験。最初に選んだお店はほぼ前述したとおり。女性達のドリンクのおねだりを上手に交わし、2杯ほど呑んで店を出た。

2軒目。IRON CLUBという店だった。B君によると、丁度その日はダンスショーがあるらしい。普段のスタッフに加え、系列店?のダンサーなどがその店に集結するとのこと。店内は奥行きがあり、手前から奥に向かって2つのお立ち台。そして、真ん中には空っぽの丸い風呂。その頭上にイカつい鎖。

入店約1時間後。ショータイムはなかなか始まらなかった。マッサージにでも寄ってホテルに戻ろうかなどと思っていた時、突然「風呂」の中にいたグラマラスな女性が上の鎖に捕まり大きく揺れはじめた。高さ2〜3メートル。予想外に力強いパフォーマンスだった。拍手喝采。日頃から体を鍛えていないとあれはできまい。

そこから徐々にスタッフが増えてきた。全身スパンコールの女性達が酒を勧めまわり、昭和な白スーツを着た男性の司会、お揃いのセクシー衣装でのダンスなどなど。お客も、壁際の席はほぼ埋まりお立ち台にかぶりつきで酒を飲んでいる。全体的に中華系が多い。私より若そうな観光客女性もいた。日本人グループも何組かいた。エアコンが効いているはずなのに暑く、店内は熱気にあふれていた。

 

スパンコールドレス女性の中の1人がB君のお友達(?)だった。既婚子持ち31歳。気張った感じがなく、しかし気配りができそうなスレンダー美人。人気がありそうだ。数少ない女性客の私と、パタヤデビューのA君には何かと気遣ってくれた。無理にドリンクを勧めてくることもなく、B君の隣から時々「一緒に踊ろう」と促してきた。私が踊ると、他のスタッフも寄ってきてみんなで一緒に踊ってくれた。曲が落ち着く度、私に笑顔を向けた。

 

メインのショーがようやく終わり、目玉が片方飛び出そうな会計をなんとか済ませ帰り支度を始めた。またもやハグ。先程のスレンダー美人だ。メイクの女性と違い、私より背が高い。細い腕で、繊細で丁寧なハグだった。「またおいでね!」という笑顔に「うん、行く行く!」という顔を返さずにはいられなかった。

 

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B君は、ATMに寄った後、もう一仕事していくと言って、1人ネオンの中に消えていった。

ホテルに戻る前、ひっそりと営業していた屋台でクイッティオをすすりながらこの日出逢った2人の女性のことを思い出していた。明日も明後日も、来年もこの街の酔狂は続いていく。

ふう。わたし、男でなくてよかったな。