日焼けどめが溶け落ちる

タイ中心旅行記ブログ

都内銭湯の受付でうなだれる

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数年前、都内23区内にあるゲストハウスに宿泊した。

宿の近くに銭湯があるらしかった。ただ、スタッフ曰く「今日は不定休かもしれない」。 「わかりました、ちょっと電話してみます」と、私は自分で銭湯に電話をかけた。夕方6時を少し回った頃だった。しかし、何度かけても呼び出し音が鳴り続けるばかり。銭湯がダメとなると、ゲストハウスの中にある共同シャワールームを使うことになる。ここへの宿泊は二泊目だった。この日は4月だというのに夏日のような暑さだった。汗だくで宿に戻ってきたところだった。今日こそは湯船に浸かりたいなぁ…。 スタッフ曰く、その銭湯からさらに数百メートル行ったところにも別の銭湯があるらしかった。なんだ、早く言ってよ。時間はたくさんあった。お風呂グッズ片手に、散歩がてら向かうことにした。
最初に電話をかけた銭湯はちゃんと営業していた。中に入るとややごった返していた。都内の銭湯なんてどこもそんなもんだろう。やや古びた、いかにも下町っぽい雰囲気だった。せまいロビー中央に受付カウンターがあった。若い女性従業員が一人いるだけだった。料金を受付で支払い、ロッカーの鍵を受け取るシステムだ。少し並んだあと、自分の番がきた。鍵を受け取る際、なんの気なしに「来る前に電話したんですけど繋がらなくて…」と、受付の彼女に話しかけた。 特に何も考えていなかった。「開いててよかった〜」と、続けるつもりだった。が、彼女は前半の私の言葉を聞くなり、早口でぴしゃりと言った。

「忙しい時は接客優先なんで」

夕暮れの下町を一人ブラつき、肩の力が抜けていた。風呂の後はビールを飲んで寝るまでゆっくりしよう…などと、ぼんやり考えていた頭に水をかけられたような。急に現実に引き戻された気がした。彼女にしてみれば、この混み合う時間に一人っきりで受付を任され、ウンザリしていたのかもしれない。お客は妙齢の男性が多そうだ。若い女性が一人で座っていれば、セクハラめいたことを言う者もいるかもしれない。その上で、オバサンに「なんで電話出てくれないの?」と文句を言われたと思ったかもしれない。彼女は、ただ今日の仕事を全うしようとしている。 スピーディで無駄のない対応。愛想笑いをする必要など、ない。 鍵をうけとり、二度と彼女と目を合わせないようひっそりと奥の廊下に進んだ。

若い彼女が提供したくないものを、勝手に求めていた自分が悪い…。なんだか急に老け込んだ気分になった。がっくりとうなだれたまま脱衣所に続く暖簾をくぐった。もうすぐ40歳の春。

※写真は都内ですが内容とは関係ありません

バンコクのコワーキングスペース

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バンコクのコワーキングスペースにいる。エアコンはもちろん、広く開放的で居心地がよい。一度利用したことがあったが、料金システムを忘れたまま受付に行き、私の下手な英語のせいでうっかり1200Bの年会費を払わされるところだった。

次の予定まで数時間という時。コワーキングスペースがないなら、カフェやファーストフード店で時間を潰すことになる。言わずもがな、タイは暑い。無駄な動きは出来るだけ避けながら時間をつぶしたい。

運動がてらちょっと外歩き…などしようものなら、あっという間に体力を奪われる。日焼けに弱い私の皮膚にはあっという間に発疹が現れる。体中の水分は奪われ頭痛。熱中症だ。日本では絶対飲まないような冷たくて甘いコーヒーを屋台で買う。体に悪そうな味が心地よい。
デパートなどの室内で時間を潰すのがよいではないかとも思うが、タイのエアコンはどこも尋常じゃなく効いている。お腹や足を冷やし、体調を崩してしまうのが怖い。
下手に乗り物に乗って、宿などに戻るのも危険だ。事故に巻き込まれるということではなく、次の予定に間に合わなくなる可能性があるのだ。バンコク中心部の渋滞は、昨年ついに世界ワースト2位に輝いてしまったという。タクシーを捕まえ、google MAP上では10分で到着する道のりに、4,50分かかってしまうなどザラである。
かつてはマッサージという選択肢もあった。ただ、最近バンコク中心部のマッサージ店は値上げが続いている。1度や2度ならいいが、長期滞在中となると少し躊躇してしまう。
どうせお金を払うなら、何か自分に還元されるような使い方がしたい。コワーキングスペースにPCやタブレットを持ち込んで、作業をすれば時間を有効に使える。

そうして黙々と今、画面に向かう。英語が飛び交うこの空間にタイらしさは全くない。私がバンコクに来てやりたいことはこういうことだったのか。東南アジアの生暖かいに吹かれ、ビールを飲みながらのんびりするだけでは気が済まない人間になっている。

チェンマイのRTCバスに乗りながら考えた

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数年ぶりのチェンマイ。今回の初体験は、ピカピカの路線バスRTCだった。

バスターミナルから繁華街の中にある宿への往復、行きたい店への移動など何度も乗車。乗客はまばらで、まだまだ存在が浸透していない印象。しかしあの快適さはすぐに周知されるだろう。

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チェンマイRTC路線図(2019年1月現在)
全部で5路線。出発時刻は一応決まっているようだが、各駅に何時、というのはわからない。上地図の95番(MAYAデパート前)から110番(バスターミナル前)まで35分かかった。参考までに。
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チェンマイRTC時刻表(2019年1月現在)

乗車方法などは、こちらの方がとても詳しく書いておられた。

chiangmai43.com

以下はわたしなりのレポート。

乗り方

バス停から乗車

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バス停にはRTCの看板がある。5種類の路線の内、通過する路線番号が書いてある。 乗り降りがないと通り過ぎてしまうので、手を挙げてアピールしたほうがいい。乗り口は前側。

支払い

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支払いは前払い。どれだけ乗っても一律20B。現金の場合はドライバーへ。釣り銭がない可能性があるので事前準備が要。ラビットカードの場合は前のカード読み取りにカードをかざす。支払いが終わったら席へ。

目的地で停車

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目的地前でボタンを押せば停車してくれる。ただし、日本の路線バスのような案内放送などはない。 目的地に近づいているかどうか専用アプリ又はサイトで確認する。場所によって、バス停間が大きく離れているので、慣れるまでは確認はしっかり。 バスが停まったら車内真ん中出口から外へ。

バスのよいところ

この路線バス、多少の交渉が必要なソンテウやトゥクトゥクに比べると圧倒的に安い。少し時間がかかるし、目的地の真横に降り立つことは難しいが、交渉がうまくいかずボラれたり、全く違う場所に連れていかれることがない。 バンコクで使用しているラビットカード使えるのもいい。車内で購入・チャージ可能だがそういう人を一度も見かけなかった。バンコクでいくらかチャージしてから行くのがベター。 エアコンが効いているのもありがたい。灼熱の中歩き回ってぼんやりした頭にやさしい。 さらにフリーWi-Fi。観光客を意識しているのであろうサービスの1つ。

バスの風情はドライバー

何にしても、風情と便利の両立は難しい。ピカピカのバスにタイっぽさを感じるとすれば、やや荒っぽい運転や、ボタン押してなくても停まってくれるドライバーの人情だ。 乗車する際はいつも、ドライバーからどこへ行くのか聞かれた。 すると、そこへ行けるかどうか教えてくれる。また、降車時もドライバーが声をかけてくれる(特に外国人に気を使ってくれている印象)。渋滞にはまっている時はタイ語で何やら話しかけてくる。最新システムのバスを操るのは皆、チェンマイという地方都市出身の気の良いおじさん達だ。


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余談。帰りのバスターミナルに向かう道中もこのバスを利用した。バスターミナルが目と鼻の先という小道前で降ろしてもらった。(バス停とは違う位置だったが近道で停車してくれた)。たった10メートルかそこらの夜道に野良犬が1匹ただずんでいた。夜9時。この時間から早朝にかけての野良犬が苦手だ。しかしそこを通らないとバスに乗れない。荷物を持ったままどうしようかと立ち尽くした。そこへ地元の中年男性がバイクで通りかかった。チャンスだ。バイクをとめて犬が怖いので私に並走してくれと頼んだ。すると、男性はハハハと笑い、私の荷物をバイクの足元にのせ、私も後ろに座れという。結局バスターミナル乗り場まで連れて行ってくれた。何度もお礼をいい、いくらか渡そうとしたが断られ、あっという間にその場を離れていった。
あのおじさんは今回の旅、私のベスト・オブ・ヒーローだ。

旅人たるもの

f:id:migiwaaan:20190124200721j:plain ドミトリーで2人の旅人に出逢った。
同世代と思われる中国人女性と、スロベニア人中年男性。中国人女性は日本で働いた経験があり流暢な日本語と、多少の英語が話せる。スロベニア人男性は英語のみなので、彼女が会話の仲介役をしてくれる。
ドミトリー近くの学生市場で夕食を共にした。

「あなたはなぜチェンマイに来たの?」
「今日は1日何をしていたの?」

と、お決まりの質問。しかし、私を含め3人とも、これといった答えがない。なぜチェンマイにいるのかわからない。そして、雄弁に語るような今日を、誰も過ごしていなかった。
"旅人"と"旅行者"の違いなのかもしれない。旅人はどこかへ出掛けること自体が目的である。その場で何かをしようとは思っていない。『じゃあ一体なにが楽しいの?』と聞かれると困る。

どこへ出かけても、行動パターンはだいたい決まっている。翌日に疲れを持ち越さない程度に歩き、食事はメイン意外はごく簡素(又はメインすらなし)。Wi-Fiが入る場所をさがし、疲れたら早めに宿に入り、スマホや本を眺めながらぼんやり過ごす。
カメラ好きなら、景色を写真におさめ、ブログやSNSにアップする人もいるかもしれない。しかし、『いつか』『時間がまとめてとれたら』などと言って誰に公開するわけでもなく記録媒体内を満タンにしているだけ人が結構多いのではと推測する。
私は複数のSNSアカウントとブログを持ち、今のところ放置しているものがほぼない。これはもしや旅人としては三流なのかもしれない。

「明日はなにするの?」

ノンアルコールで、さらりと夕食を済ませ、帰路につきながら誰かがきいた。
中国人女性「チェックアウト時間ギリギリまで宿にいて、それから◯◯まで歩いて移動する」
スロベニア人男性「どこかで髪を切る」
日本人女性「どこかでゆっくりコーヒーを飲んで、コワーキングスペースに行く」



旅人よ、明日もどこかで。

シドニーの礎

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2度目のシドニーだった。1度目と同じ11月。春の到来がいつもより遅かったらしい。ジャカランダの花が街のあちらこちらで満開になっていた。花弁は桜の様にハラハラとは散らない。ストン!と潔く落ちる。

 


シドニーは若い街だ。イギリスから移民がやってきたのはわずか200年前。移民というと能動的な雰囲気だが、イギリスはこの地を「流刑地」と位置付けていた。

 

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シドニー中心部にあるハイドパークバラックス博物館へ向かった。元々は囚人宿泊施設として1819年に建てられた。

約200年の間に、壁が何度も塗り直されたり、新しく壁が作られたりしている。

ハンモックがズラリと並んだ部屋は不気味で生々しい。手渡された日本語の音声案内が「この建物内に残された痕跡からわかるものは沢山ある」と繰り返していた。

「そりゃそうだろう」と心の中で呟いていた。

オージー(=オーストラリア人)に言うと嫌な顔をされるかもしれないが、200年前のものなど、あって当然なのだ。大陸の、何千年前とか、何万年前のものを掘り返すのとは違う。

 


イギリス本国から送られた若い囚人達は単にそこで刑に服すだけでなく、家庭を持ち、仕事持ち、街の礎を築いた。

そこからまだたった200年。

シンプルで無駄のない街並み。安心安全、信頼できる食料品質。

バス、鉄道、船の料金が一枚のカードで支払える効率性。クレジットカード普及率(今回の旅、現金は1ドルも持たなかったが全く問題なかった)。


古いしがらみがない、未開の地で、若い頭を使って勢い良く築き上げた最先端の文明。なにもかもが気持ち良い。もちろん、祖国を追い出された囚人達の苦しさあっての結果である。